打ちのめされた気分の時も元気になれる!悲しみの中にたしかに光る幸せー1980年代のNYで逞しく生きるマイノリティーたちのコミュニティを描く「POSE/ポーズ 」

執事見習い
執事見習い

全米で一大ムーブメントとなったミュージカルドラマ「Glee/グリー」のクリエイター、ライアン・マーフィーが描く1980年代から90年代のアメリカにおける人種・性差別に焦点をあてた物語。超売れっ子であるライアン自身も同性愛者で、同世代を生きてきた同志たちの姿を描いたこの作品は、有色人種のLGBTQが立たされた苦境、当時不明点が多かった新しい性病エイズへの恐怖などの暗くて辛い話題を、「ボール・カルチャー」を通して幸福や勇気と希望、愛と笑いのある世界として描いていて、性的マイノリティーへの差別を悲劇や被害者として映し出すのではなく、強く生きた軌跡を後世に伝えることに成功しています。観ていて喉の奥が詰まるような感覚がありましたが、最後に希望を残してくれます。

アメリカに住むことになった約20年前、気づけば以来ずーっと観続けています。そんな海外ドラマフリークが、海外ドラマは観たことないという方向けにはもちろん、次に何観ようか迷っているという方も参考にできるようにあらすじ以外にも注目のキャスト、製作者、脚本家などにも焦点をあてながら紹介したいと思います。

あなたにもハマりそう?まずはざっくりご紹介まで

配信・視聴:Hulu(月額933円~/2020年7月現在) 、U-NEXT(月額1990円~/2020年7月現在)、  

期数:第1から2まで(シーズン3の制作決定済!) 

主演:MJ・ロドリゲス(半年にわたる全米オーディション選ばれたトランスジェンダー女優の1人)

プロデューサー:ライアン・マーフィー

1シーズンで物語の章が完結していくスタイルで進行します。1話は約1時間。

この作品が好きになりそうな人:

✓ヒューマンドラマが好き

✓虐げられてきたアンダードッグの物語に勇気づけられる

✓音楽が好き

✓ファッションが好き

✓ショー・ビジネスが好き(煌びやかな衣装)

✓「Glee/グリー」が好きだ

こういう人はイメージ違っちゃうかも

×同性愛を受け入れられない(テーマの一つになり、しっかりラブシーンがあります)

×~高校生までのお子様と観るには向かないかも(上記の理由で)

✓が多かった人はとりあえずこれだけ読んで決めてみて!

1980年代~90年代初頭のニューヨークに生きたトランスジェンダー女性と有色人種の同性愛者たちの物語。ご存知かもしれませんが少し歴史背景のお話をしますと、「人種のるつぼ」と呼ばれるその街でも、白人とそれ以外、性的マイノリティーへの差別は間違いなく現実のものでした(今に至るまで、これはアメリカに根差す問題の一つです)。さらに1980年初頭にはアメリカで新種の奇病が確認されます。免疫系を破壊するこの病気についてアメリカでは「同性愛者の男性の間で流行している」と報じられ、これがCDC(アメリカ疾病予防管理センター)により、AIDS(エイズ)と命名されたのち、薬物中毒者たちの間で大流行になりました。80年代中盤には、有効な検査方法が確立されますが、ご存知の通り30年たった現在も決定的な治療法は見つかっていない病気です。この流行が、宗教的な理由に加えてセクシュアルマイノリティーに対する偏見をさらに強め、未知と無知による差別が加速しました。家族に受け入れてもらえないばかりか、道を歩いていただけでいわれもなく殴られたり、仕事がもらえなかったり、犯罪の濡れ衣を着せられる事があったそうです。

「POSE」の中では、実の家族にも受け入れてもらえず家を飛び出した彼らはニューヨークに流れ着き、自分の「ファミリー」または「ハウス」というコミュニティを作る。「マザー」となり、「ファザー」となり、路頭に迷う「子ども」を自らの家に受け入れ面倒をみて、マイノリティーとして生きる術と、希望にみちた将来を掴み取る事を応援します。彼らは、団結して差別や偏見と闘うこと以外にも、自分たちが輝くことができ、マイノリティーとして支えあい、鼓舞しあうためのコミュニティーとして「ボール・カルチャー」を築き、その表現と抗議活動によって次第に市民権を勝ち取ってゆきます。

辛い記憶や出来事を乗り越え、自分が受けられなかった愛を後世に託して無償で注ぐ姿、その系譜が継がれてゆく様子に勇気づけられます。プロデューサーのライアン・マーフィーは白人ではありますが、同性愛者で、男性のパートナーと結婚しています。彼がこの悲しい歴史を単純な悲劇として描かなかったことには、一人のマイノリティーとして、80年代後半~90年代のトランスジェンダー女性と有色人種の同性愛者が力強く生き、輝いていた事実を祝福し、世に認めてもらいたい気持ちがあったのではないでしょうか。

「ボール・カルチャー」については、言葉で説明するよりも、その華やかな世界が予告編で表現されています。

【FOX】「POSE」予告編
FOXによる予告編

わたくしは独占配信されている他のコンテンツ目的でHuluを契約していますが、ほかにU-NEXTでも視聴可能のようです(2020年7月現在)。

配信は各社サービスが利用可能!ご自身に合う配信元で視聴ができます!

U-NEXT、Huluともに無料お試し期間を行っていますので、まずはそちらを利用してご覧ください。なお、配信期間については予告なく変更になる場合がありますので、各社サイトにてご確認ください。

無料体験は2週間!

まだ観ようかって踏み切れない方へ、この作品の魅力をさらに掘り下げてキャストや製作陣のことをご紹介させてくださいませ。

作品を彩る魅力的なキャストたち

本作の撮影にあたり、トランスジェンダーの女優のレギュラー起用が5人もあったことは史上初だとして話題になりました。実に半年間のオーディションを経て選ばれた彼、彼女らは作中でとても輝いています。

MJ・ロドリゲス(ブランカ)

トランスウーマンの女優さんで、ジェンダーに悩む少年を主人公にしたミュージカル映画「サタデーナイト・チャーチ/Saturday Church」に出演しています。悩める少年ユリシーズをセクシュアルマイノリティーが集う教会に誘うエボニー役で出演していて、本作のデイモンとブランカの関係性に近い役柄です。ブランカは所属するハウスのマザー、エレクトラと対立しハウスを飛び出して、夢だった「マザーになる」ことを実現するためアパートを借り、面倒をみる「チルドレン」を探します。お歌も素敵でPOSEでは歌うシーンもありライアンの歌への愛を感じます。余談ですが、MJはYoutubeでメイク動画も公開しています。

映画『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』予告編
シネマトゥデイ公式による映画予告編

インディア・ムーア(エンジェル)

アメリカのモデル兼女優で、MJロドリゲスと同じくミュージカル映画「サタデーナイト・チャーチ/Saturday Church」に出演(先の予告編でも一瞬映ります)。雑誌タイムズによる2019年の世界で最も影響力の強い100人の一人に選ばれています。本作の役柄エンジェルと同じく、インディアはプエルトリコ系でNYのブロンクス出身でGQやVOGUEなどの雑誌への掲載やGucciやChristian Diorのモデル経験もあり。本作ではそのヴィジュアルからまともな職につけない事で埠頭で客をとる売春婦として、妻子持ちの白人男の愛人とのパパ活にハマっていく。

今後はNetflix配信のファミリームービー『A Babysitter’s Guide to Monster Hunting(原題)』に出演されるそうですので、こちらも楽しみです。

 ライアン・ジャマール・スウェイン(デイモン・リチャーズ)

ダンサー兼俳優で、小説を執筆するたど多才なライアン。本作のデイモンはゲイの少年でトランスジェンダーではありませんが、ゲイであることを理由に親に勘当されてしまいます。デイモンはいわゆる「なよなよした感じの男の子」であって、彼の性自覚は男性で、恋愛対象が男性なのです。こうした子が親から受け入れられない事実は、キリスト教の家では白人にも珍しいことではありません。ダンサーになる夢を諦めきれずNYへやってくるものの、スリに合い路頭に迷ったデイモンは公園で声をかけてくれたブランカを思い出し、二人の出会いは彼の人生を大きく変えることになる。

 ドミニク・ジャクソン(エレクトラ)

女優さんでもありますが、ドミニクはモデルとしての活躍が大きく、POSEの出演を機にValentinoやMarco Marcoなどの一流ハイブランドのランウェイを歩くことにもなったとか。ただ、インタビューを読むと壮絶な人生を送られたそうで、出身であるトリニダード・トバゴでの性差別と家族との軋轢、11歳の時にミサ仕えをしていたイングランド国教会の司祭から受けた性的暴力、アメリカに渡り出会ったボールルームに救われたこと、永住権がなく正規の仕事が得られずに身売りして稼いだ日々を「まるで自分の価値が無いように感じた。私はゴミ同然だった」と語るなど、自己評価の低さを告白しています。それでも役柄のエレクトラ同様、彼女は実際にボールルームでカリスマ的な人気を誇っていたそうで、実際作中のエレクトラは他を寄せ付けない華があります。セリフは攻撃的なまでに大げさですが、そこにはしっかりと刺さる正論があり、作中に大きな意味をもたらしているように思います。

ビリー・ポーター(プレイ・テル)

2013年にミュージカル『キンキーブーツ』でトニー賞最優秀ミュージカル主演男優賞に輝いた歌手、俳優(同作でグラミー賞も受賞)。プロデューサーのライアンとは、アメリカンホラーストーリー出演で一緒に仕事をしています(彼だけでなく同作から出演の演者さんは複数名いらっしゃいます)が、ライアンとの対談によると、なんとPOSEのオーディションに現れた段階では、役がないのに来てトランプ政権に対する文句などを永遠と話しあったのだとか。マズイという話になって製作陣が後からビリー用の役として、MCをプレイ・テルとして作り込んでいったのだそう。過去の出演作では、撮影時や舞台では自身の個性やゲイっぽさは控えめにしてきたそう。いつも「やりすぎ」だったり「刺激が強すぎ」と言われてきたからとのことですが、本作についてはライアンから「君はこの作品の主演男優だから、君らしさ前回で行こう」と言われたんだとか。セクシュアルマイノリティーの性事情などをここまで映像化しちゃうんだ!というシーンもあって、時代の変化やこの作品の新しい取り組みとその一部であることを嬉しく思うという趣旨のコメントしています。

トニー賞、アカデミー賞の授賞式に毎回オリジナリティーあふれる衣装で現れ話題をかっさらうファッショニスタでもあるビリーですが、本作でもファッションデザイナーとしての成功を夢見るゲイで、ボール参加者の「ファザー」的存在の役どころを演じています。美声を披露してくれる場面も必見です。

ご紹介した一部のメインキャストの他にも、総勢50名以上のトランスジェンダー俳優/女優が出演します。

ライアンはトランスジェンダー役にはトランスジェンダーの人以外使わないと決めていたそうです。リアルな表現にならないからという理由です。この先どんな役者さんが本作に彩を添えてくれるんでしょうか、楽しみでなりません!個人的にはGleeにもユニーク役として出演したアレックス・ニューウェルが出てきてくれたらな~なんて思っています。歌ってほしい!

個人的には、シーズン2までの出演で強く印象に残っている一人に、ブランカの「息子」リル・パピとして出演するエンジェル・ビスマルク・クリュエルが居ます。彼はトランスジェンダーでもゲイでもないようですし、パピもどうやらゲイの役どころではなようであまりフィーチャーされませんでしたが、彼にとっての「ハウス」や「ファミリー」の意味や重要性は絶大なものでしたし、物語を通してどんどん変わってゆく人間性や顔つきも良かった。シーズン2の頃には理想の彼氏に成長します。笑

作中でも紹介される、「ボール・カルチャー」が世に注目されセクシュアルマイノリティーが容認の流れを後押ししたMadonnaの「Vogue」MV

Madonna – Vogue (Official Music Video)
Madonna公式YoutubeチャンネルよりVogueのMV。ヴォーグ・ダンスとして大流行した。

この曲とダンスのヒットにより、「私たちが主流になる時代が来る!」「90年代は別の時代だ!」とブランカは大興奮。アートシーンでのセクシュアルマイノリティーの起用が増え、メディアでの露出が増えていきます。

”最高のクリエイター”と評されるヒットメーカーが、自信のキャリアの代表作となると宣言した作品

クリエイター:ライアン・マーフィー

彼を一躍有名にしたのは、世界的にもファンの多いミュージカルドラマ「Glee/グリー」でしょう。私も一瞬で心をつかまれた作品です。ライアンは十代半ばでゲイを公表していたそうですが、Gleeにも沢山のゲイ役が登場します(実際にゲイではない役者もいたようですが)。同作では主にメインキャラのカート・ハメルを通して、セクシュアルマイノリティーのリアルを描いていたように思いますが、それはあくまでミレニアルの時代に即した在り方でした。その後も『アメリカン・ホラー・ストーリー』、レスキュードラマ『9-1-1:LA救命最前線』など、多彩なジャンルで数々のヒット作を生み出したライアンが、自身のキャリアのハイライトとして、満を持して打ち出したのが、「POSE/ポーズ」なんです。「LGBTQ+コミュニティのためにただショーを作るだけでなく、それ以上のことをしなくてはならないと思った。このコミュニティに手を差し伸べ、救いたいんだ」と語り、自身の本作による収入をセクシュアルマイノリティーのための団体に寄付しているなど、エンターテインメントを超えてこの作品の表現にかける思いが感じられます。

共同クリエイターのスティーブン・カルナスがLGBTQ+を題材にした新ドラマ「81 Words」の製作を発表!

実話を基にゲイの活動家であり精神科医のフランク・カメニーとバーバラ・ギッティングスを描くシリーズ。ふたりは同性愛者の精神科医によるグループを組織し、米国精神医学会(APA)で決められた同性愛者の定義を覆すために闘う物語です。

現代社会においては奇妙な事のように映りますが、過去に同性愛は、APAによる『精神障害の診断と統計マニュアル』(1973年の改訂版で撤回されますが)では性的倒錯として分類され、治療の対象だったのです。ゲイ矯正治療、コンバージョン・セラピーなどと言われます。この認識を公に覆すことになったのは、世界保健機関WHOが1990年に「同性愛はいかなる意味でも治療の対象とはならない」との声明を出した出来事でした。余談ですが、同性愛者の歴史って調べてみると古代くらいからあるのに、市民権を得る事に数千年単位の時間がかかっているのは、やはり宗教が理由なのかなと思うと人を救うための思想や信仰が迫害につながる虚しさは、本当に悲しいものがあります。

ライアンにしても、スティーブン(同性愛者であることを公表している)にしても、出演者たちもこれまでの人生を通して常にホモフォビアに苦しみ、戦ってきた人々です。ライアンもエイズへの恐怖に怯え、深夜に自殺防止のホットラインに電話したこともあったそう。表現を通して自らの体験を残し、世に知らせ、同じことで苦しむだれかの力になりたい…強い覚悟を感じる作品は多くの人々の心に何かをもたらしてくれるでしょう。

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